音楽幻想百景 / 祖父尼 淳
音楽を聴いているうちにその音楽に引き込まれ、ふと気がついたらいつしかどこか別の世界にいたという経験はないでしょうか?
私を様々な幻想へと誘ってくれるレコードやCDを気ままに綴ってみました。一応、最初のコンセプトはあまりメジャーじゃないものという基準で挙げていましたので、ハケット、アンソニー・フィリップス、マイク・オールドフィールド、PFMなんかははずしていました。でもメジャーじゃなくてもこんなに素晴らしい音楽はたくさんあるんです。
なお、この原稿は以前ミニコミに連載していたものなので時期的にずれのあるところがあります。多少手直ししてありますが...。

「おっ、このレコードがないぞ!」ということが当然あると思いますが、その時は、ぜひこのコーナーに付け加えてく下さい。みんなで作っていきましょう。


1)Jean Pierre Alarcen / Tableau 1 (フランス、1979年)


1972年の彼は、豊穣なワインのような素晴しい叙情に彩られた演奏で名を上げたフランスの Sandrose というグループのギタリストであった。そして1979年、この作品が彼のセカンド・アルバムであった。一枚の風景画を長い年月をかけて、丹念に、マイペースで描き続け完成させていく。そこには苦悩も喜びも超越してしまった一人の画家の姿が存在している。そんな一人の画家の心象を綴ったかのような抑制された叙情が私の身を震わせてくれる。まるで波間に漂うシルエットが幾度も浮かんでは消えていくかのようだ。素晴らしい。
「Tableau 2」はもう出ないのか?こうしていつまでも待つことになるのだろうか?
現在彼はどうしているのだろうか?埋もれてしまうには惜しい人だ。


2)Marco Antonio Araujo / Lucas (ブラジル、1984年)


ブラジルの孤高のアーティスト。81年のファーストからベストを含めこの作品が5枚目にして最後の作品となった。抑制された情感が、表情豊かに織りなす世界は、青空に昇りつめるような高揚感をもたらし、その清冽な輝きが彼の孤独な世界を照らしているようだ。この作品とともに彼も青空へ羽ばたいていってしまった。本当に惜しい人を亡くしてしまった。


3)Atoll / L' araignee-Mal (フランス、1975年)


フランスを代表するプログレッシヴ・ロックのセカンド。アルバム・タイトルの「夢魔」という言葉にすべてが集約されている。闇を引き裂くようなめまぐるしい曲構成と、その合間に現出する静なる甘美の瞬間がもたらす幻想の世界。すっかり翻弄されてしまい、脳味噌が溶けていくかのような錯覚に襲われる。


4)J. S. Bach / Cello Suites


E.A. ポーの小説を読みながら、バックに流しておくと見事にはまってしまう。


5)Banana / Aun Es Tiempo De Sonar ( アルゼンチン、1979年)


子供の頃、遊び疲れてふと空を見上げると、夕焼けが静かに忍び寄ってくる。そんな独特な雰囲気を持つ、どこかほっとするような優しいサウンドだ。実に南米らしい「歌」を主体としたシンフォニック・ロックの逸品。


6)Barclay James Harvest / Time Honoured Ghost (イギリス、1975年)


これもまた先の Banana と同じように懐かしき子供の頃を思わせる憧憬的なサウンドである。ジャッケトを眺めながら聞いていると幼年時代にタイム・スリップしてしまう。優しい音だ。Barclay James Harvest は、ビートルズのジョンとポールの関係に似たジョン・リーズとレス・ハルロイドの名コンビで数多くの名曲を作ってきたが、1967年のデヴュー以来、現在も活動を続けるイギリスを代表するバンドである。私にとってのBJHのベストは「モッキンバード」とこのアルバムである。


7)Maria Del Mar Bonet / Saba De Terrer (スペイン、1979年)


女性ヴォーカル・ファンの間では人気のあるスペインの歌姫の一人、現在も地道な活動を続けており、これは1979年の作品。イスラム世界に支配されたことのあるスペイン、これはスペインからしか出てこない音だ。彼女の唄声は、素朴で美しい響きを持っており、なんかフォト・アルバムを開け、思い出を懐かしむような郷愁を感じさせるサウンドである。


8)Faithful Breath / Fading Beauty (ドイツ、1973年)


これは実にドイツ的な湿り気を帯びた憂いに満ちたサウンドである。ジャッケトに描かれた、絶望に打ちひしがれた女性の主への切実なる祈りの声もむなしく、悲痛な叫びだけが教会の中に響くのみである。恐怖映画に出て来そうな暗い教会、聖書、秘密に塗り込められた修道院の世界がここには存在している。このアルバムはファーストで、メロトロンに彩られたセカンドを発表したあとはハード・ロックへとサウンドを変化させていく。


9)Antonio Breschi / Mezulari (スペイン、1985年)


スペインはバスク地方の佳作。けれども彼は元々イタリア人のピアニストである。憂いに満ちた情感的なピアノの調べに誘われて、悲しげなトランペットの響きがこの空間にそっと忍び込んでくる。そして、波に運ばれてきた人間の声がどこからともなく響いてくる。カモメの鳴き声の哀しみとともに誰もいない海辺でひっそりと聴いていたい。バスクの歌姫の一人、Olaz Zugastiやバスクの重鎮、Benito Lertxundi らが参加している。


10)Fruup / Modern Masquerades (アイルランド、1975年)


フループ4枚目の作品で、当時アイルランドを代表するロック・グループであった。元キング・クリムゾン、フォリナーのイアン・マクドナルドがプロデュースを手がけている。中世の古城に足を踏み入れ、悲しき歴史の染み込んだ石段をゆっくり上る。夜空を見上げ、遥かいにしえの世界へ思いを馳せる。虐げられた子供たちは星に願いをかけ、いつか遥か彼方の安住の地へ行けることを夢見ている。夜のとばりが次第に光輝くものを覆い尽くしていく。そこには闇が訪れ、無情だけが漂っている。やるせない切なさだけが私の頭の中で残響している。「Gormenghast」のなんと素晴らしいことか。


11)Gordon Gltrap / Visionary (イギリス、1976年)


ウィリアム・ブレイクのイラストと詩にインスパイアされたものだが、弦入りクラシカル・サウンドは繊細で気品があり、実にマッチしている。ファンタスティックな音のつづれ織は次第に幻想的な光景が目の前に広がっていくようである。因みにドイツ盤のLPは見開きジャケット。彼は、優れた作品を作り続けてきたアーティストだが、あまり話題に上がることが少なく残念な限りである。


12)Egberto Gismonti / Academia De Dancas (ブラジル、1974年)
(CD: Carmo/5 511 202-2)(LP: EMI-Odeon)

ECM での流麗な諸作で有名な Egberto Gismonti だが、本国でのEMI Odeon 時代の彼の作品はひと味違うものでキーボードをふんだんに盛り込んだオリジナリティ溢れるプログレッシヴな作品を作っていたことは頭に留めておくべきであろうか。この作品は、千一夜物語を扱ったもので、エキゾチックな高揚感の向こうに物語の世界が蜃気楼となって揺らめいているような錯覚に陥る。さらにオーケストラがその劇的性を高め、ヴォーカルがその熱を冷ましてくれる。


13)Arthur Grumiaux / Baroque Violin Sonatas


これは有名なクラシックのヴァイオリニストの作品だが、シリアス・プログレ・ファンにも十分に感動を与えてくれることでしょう。ヴァイオリンとピアノによる演奏は哀しさに満ちています。タルティーニの「悪魔のトリル」やヴィタリの「シャコンヌ」には聞き惚れてしまいます。


14)Grupo Sintesis / En Basca De Una Nueva Flor (キューバ、1979年)


過去の苦々しい想いが次々と頭をよぎっては消えていく。ほのかな夕闇の香りが、はかなげに、優しく包み込んでくれる。女性ヴォーカルがの清冽な響きが浄化してくれるかのようだ。キューバの最高峰シンフォニック。この後、Sintesis 名義で2nd を発表している。このキーボーダーの名前をどこかで見かけた記憶があるのだが、、、。


15)Peter Hammill / Fireships (イギリス、199 年)


詩情豊かでイマジネイティブだ。ラスト近くでは、大海原、燃え上がる帆船を包み込む暗闇からゆっくりと夜が明けていくかのようなうっすらとした広がりともいうべきか、あるいはすべてのものを包み込んでくれるかのような何か大きな存在というものを感じる。ターナーの絵画のようとでもいうべきか。傑作だと思う。


16)Harmonium / Les Cinq Saisons / L' heptade (カナダ、1975、76年)


波が打ち寄せるように叙情の滑らかな流れがあまねく押し寄せる様は、豊かな幻想のヴィジョンを現出し、我々を幻惑の世界へ誘ってくれる。「Les Cinq Saisons」では、メロトロンの響きなくして、この豊穣な幻想性が我々の想像を超えた世界へ導くことはなかっただろう。さらに「L'heptade 」では女性ヴォーカルとオーケストラがあいまって、その悲哀はじっくり我々の心の奥襞に染み込んでくるのである。


17)Hoelderlin / Hoelderlin's Traum (ドイツ、1972年)


ゲルマンの森の深遠な世界に迷い込んでしまう。そしてもう二度とそこからは戻ってこれない、、、、。永遠にゲルマンの森の中をさまようのである。ヘルダーリンのファースト・アルバムである。


18)Kaipa / Inget Nytt Under Solen (スウェーデン、1976年)


A 面の壮大な組曲もさることながら、B-1,2,4, B-5(ライヴCDの方がギター・ソロが長くてよい。)のような小曲が実に素晴らしい。スウェーデンの寒い冬とは裏腹に暖炉の火にあたりながら想いに浸るかのような、とても暖かい音だ。ラストのギター・ソロが永遠に続いてくれればとよく思ったものだ。心がかきむしられるような切なさがいつまでも消えることなく体中に漂っていた。


19)Bjon J:son Lindh & Staffan Scheja / Europe (スウェーデン、1984年)


リンダーのフルートとシンセ、シェーヤのピアノとシンセによるものだが、全くイージーリスニング的なところはない。リンダーのヨーロッパに対する想いを綴ったもののようであるが、曲名から判断しても安易なものではなく、かなりシビアなものを感じる。冷ややかさを内に秘めた情熱のつづれ織といったところだ。「Europe II」、「Europe III」、「Svensk Rhapsodie」なども素晴らしい。


20)Madredeus / Existir ( ポルトガル、1990)


もう今やとてつもなく人気の出てしまったマドレデウスだが、この原稿を書いたときは全然有名じゃなくて、一部の女性ヴォーカル・ファンや辺境マニアの間で騒がれていたんですね。このアルバムはセカンド。ファーストはいまだ国内盤CDは出ていませんね。15世紀栄華を極めたポルトガルが、スペインにその支配力を奪われていった悲哀を現代に甦らせたようだ。正に日の沈むヨーロッパの西の果てにて、テレサの汚れなき美声が響きわたる。


21)Mannuel Gottsching / Dream & Desire (ドイツ、199 年)


Ash Ra Tempel のあの人の最近になって発売された「New Age Of Earth」の頃の未発正規音源。闇に覆われた大海原をふたりが滑るように踊っているかのように戯れ、静かにその渦が彼らを包み込み、そして海の藻屑と消えていく。夜の眠りにかかせないブルーな一枚。不眠症の方には安眠を約束します。明かりをつけて聞いてもあまり意味はないと思います。


22)Loreena Mckennitt / The Visit (カナダ、1992 年)


国内盤もリリースされるようになって日本でもようやく知名度が上がってきたカナダのハーピスト兼ヴォーカリストの作品。美しく清楚な唄声とその演奏に身をゆだねていると幻想的なまどろみの世界で心が浄化されていくようだ。


23)Pat Metheny & Lyle Mays / As Falls Wichita, So Falls Whichita Falls
(アメリカ、1985 年)


言わずとしれたあのパット・メセニー。彼の作品の中では最も幻想性が強い作品かもしれない。20分の組曲は、劇的な展開がない分あっさりした幻想を感じさせてくれる。 ある目的を探し求めてさすらうかのようなロード・ムーヴィー的感覚とも言うべきか。 他の曲もよい。パット・メセニー・グループには、元アラス、セル・ヒランのペドロ・アズナールも参加しており来日もした。現在の彼は、当時のような荒々しいベース・プレイは抑えられ、ギターやヴォーカルやパーカッションなどをやっておりずいぶん繊細になったなぁという印象だ。


24)Phil Miller & Fred Baker / Double Up (イギリス、1994年)


 ジャケは情けないが、内容はピカ一。ギター・デュオで過去のミラーの曲(ハットフィールド・アンド・ザ・ノースやマッチング・モール、イン・カフーツ)、ベイカーの曲を演っているのだが、何とも言えないオブラートに包まれているかのような味わいがあって、至福の一時を過ごせる。聞かないでいると損をするよ。来日公演の感動も冷めやらぬイン・カフーツのライヴ「86ー89」もおすすめだ、カンタベリー・ファン必聴。フレッド・ベイカーはバークリー音楽院で教えている人でもあります。


25)Fernando Pacheco / Himalaia (ブラジル、1986年)


 A-2 が実に素晴らしい。フルートのたおやかな調べ、ヴァイオリンのメロディアスなソロ、クラシカルなギター、霧に包まれた南米の自然の情景が素朴な哀しさとなって流れるように響きわたる。パチェコには他にデュオ作品がある。
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